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第3回 テクノロジーを使いこなすための3か条

オムニチャネル時代の顧客の期待に応えるためには、電話、eメール、チャット、SMS、SNSと様々なチャネルに対応しなければならなくなりました。それぞれのチャネル対応にオペレータの専門スキルが必要となり、コンタクトが発生すれば専門スキルを持ったオペレータに適切にルーティングすることが求められます。また、コンタクトを待ち受けていれば良い時代は終わり、顧客の行動から潜在期待を察知できれば即刻センターから能動的に顧客にコンタクトするといったことも必要になってきました。

コンタクトセンターのサイジングにむけては、個々のコンタクトにかける処理時間を正確に測ることができなければ予測件数と掛け合わせての必要要員数を計算することができません。チャネルごとの個人個人の生産性測定や応対品質評価も従来に比べるとはるかに複雑になりつつあります。もはや従来の延長線上でコンタクトセンターのテクノロジーを選ぶことはできません。
オペレータによる有人対応、それもインバウンド・コンタクトに特化したコールセンター・インフラではなく、BOTやAIに代表されるテクノロジーとオペレータの融合したハイブリッドな運営とIoT時代のコミュニケーションの双方向性を支援するコンタクトセンター・テクノロジーが求められているということです。

とはいえコンタクトセンターにおけるテクノロジーは、あくまで人が中心の組織運用を支援するテクノロジーです。理想的な顧客対応を行うためにツールとして使いこなす必要があります。テクノロジー自体がソフトウェアであり、工業製品のように完成形ではないので、導入成果は使う人の考え方や扱い方に大いに依存します。幸いなことに、コンタクトセンターで使うべきテクノロジーはクラウドベースのものに移り変わりつつあります。この恩恵は、初期投資の必要がないので仮説を証明するために直ぐに試用することが可能になりました。
小規模に使用して結果が良ければ展開する、といったように機動力を発揮することができます。

また、クラウドベースのテクノロジーは、コンタクトの閑繁さを気にせず必要な規模、必要な時期に使うことができるようになったことは、資産としての固定費から経費としての変動費に置き換えることができて財務的にも大いに貢献します。従来自社のリソースを必要とした運用・保守の負担からも解放されることになりました。設定や仕様変更等が機動的に現場で行えることも費用負担のみならず機動力・柔軟性を確保することができるようになったことは大きなメリットです。
加えて個々のテクノロジーは単体ではなく、連携して効果を生む“ソリューション”化しておりコモディティ化しています。図に示す中核システムと管理システムの機能のほとんどがその対象です。

このため従来のように様々なプロダクトを単体で選び、組み合わせて使う煩雑さからは開放されて、目的に即したソリューションを選べばよい時代になりました。コンタクトセンターとしては、ベンダーから提供されるソリューションの開発思想と将来提供範囲のロードマップさえチェックすれば良く、検討が容易になりました。
では、ツールとしてのテクノロジーをどのように選べばよいか、上手に使いこなして顧客応対の成果を得るにはどのような考え方が必要か、抑えておくべき3か条をご紹介しましょう。

イー・パートナーズ 谷口 修

第1条 運営部門がテクノロジーを選ぶ

クラウドベースのテクノロジーの恩恵により、導入時にサーバー構築の必要がなくインターネット環境の整備さえできていれば様々なテクノロジーを導入できることができます。情報システム部門の負担を著しく減らすことができるのが現在のテクノロジーです。クラウドベースのテクノロジーは基本的にベンダーが直接提供するので、インテグレーターを必ずしも必要としません。導入に際して従来あった時間的・経済的な制約はなくなりました。ということは、実際に使うコンタクトセンター運営部門がテクノロジーを選べる環境になったということです。

・自分達が使いたい、使えるものを選ぶことが大切

テクノロジーが運営を支援するためのツールである限り、コンタクトセンターがテクノロジーと共存する立場であることから、自分達が使いたい、これなら使えると思えるものを選ぶことが大切です。テクノロジーを評価した経験がない、あるいは社内でテクノロジーの検討・評価・導入の責任部署が情報システム部と決まっているからという理由で検討を他部門任せにしてはなりません。

・使う目的を明確にする

プロダクトの業界シェアや、あの会社がこのテクノロジーを使っているからうちもそれにする、といった選択基準は意味がありません。自社の運営実態に照らして、顕在化している課題を解消することと併せて将来の期待値を満足するための必要機能や優先順位に照らしてプロダクトを選定する必要があります。課題解決の手段としてのツールなので、解決するためのアクションを迅速・確実に実行できるツールかどうかを選定基準にすれば良いわけで、課題発見から原因追求、仮説の構築、実行計画の策定、検証と続くPDCAを早く確実に回すことができることが条件となります。

・運営体制にテクノロジー責任を組み込む

テクノロジーと運営体制は裏腹の関係にあります。ルーティング精度、生産性、品質、予測、要員計画、VOC,スキル習熟度、セルフサービス率、その他運営上の指標はそれぞれの指標責任者にひも付き、それを支えるテクノロジーの運営維持責任も人に紐付けられるのです。テクノロジーを手の内に入れて確実な効果を上げるためにはそれぞれのテクノロジーの設計・導入・運用責任を運営組織の役割として組み入れてしまいましょう。

第2条 テクノロジーはツールであって導入すれば結果が出るものではないことを肝に銘じる

コンタクトセンターごとに顧客対応の戦略と手法が異なるため、どのセンターにでも完璧に適応して機能するテクノロジーは存在しません。最大公約数的な標準機能が提供され、そこに自社固有の事情を組み込んではじめて活用できる状態になります。そうであれば、市販されているテクノロジーの完成度が高まることを期待して待つよりは、早く使いはじめて知見を得ることのほうが重要になります。

・ツール自体よりも使いこなす“人”のノウハウのほうが大事

先行者利益を得るには、出来るだけ早く使い始めて使いこなす“人”の学習効果を上げていく時間を確保することが重要です。使いこなせそうだと見込んだプロダクトを手の内に入れ、制約や限界を知り、ブレイクスルーの方策を探り、より効果を生みそうな手法を試す専門性を得ることが大事です。

・ビジョナリーのすすめ

顧客の期待は高まりこそすれ下がることはないので、新しい技術要素の適用実験は必要です。顧客本人を特定するための声紋認証などの生体認証や、自然言語を理解する音声認識あるいはテキストを読み上げる音声合成、コールフロー途中でのオペレータ支援を行うAIなど、導入当初の精度が多少悪かったとしても将来の学習効果を期待して寛容になるべきです。テクノロジーは育てるものだと思いましょう。

・試行錯誤こそが強さの秘訣

運営施策に唯一最良の方策はありません。様々な仮説検証を繰り返す試行錯誤が成功への近道です。
コンタクトセンターが組織である以上、運営上の数値や指標を正しく計測して適正化を図る日々の運営改善が不可欠ですから、それを可能にする数値測定ができ、見やすく使いやすいレポートがあり、プロセス改善の評価ができるツールを整備しておくことがセンター運営能力を高める源泉となります。

第3条 自社の顧客期待に合うことを検証する

会社が違えば顧客が違います。顧客が違えば対応の方法も異なります。自社の顧客にどう向き合うかはコンタクトセンターが自分で判断しなければなりません。顧客との接点がどうあるべきかをカスタマージャーニー全体を俯瞰して考え戦略を決めなければなりません。これはコンタクトセンターの宿命です。
接点強化のあるべき姿を構築するために、必要なテクノロジーに期待する機能を要求できるのは全社の組織の中でセンター以外には有り得ないのです。

・カスタマージャーニーのあるべき姿を考える

電話のインバウンドに対応するセンターでも、固定電話と携帯電話の発信比率は変わっています。PCメールよりショートメールの着信確認比率が高くなっています。コンタクトの発生前にセンターからアウトバウンドするほうが有難がられる確率は高くなります。前例踏襲ではなく、本来の顧客との接点がどうあるべきかを考えるとCXを追求できる接点戦略が浮かび上がってきます。顧客のステージや生活シーンの中であるべきコミュニケーションの仕方が想像できれば自ずとテクノロジーをどこに活用すべきかがわかります。

・潜在期待に対処できる準備をする

顧客が声にできる「顕在期待」は日々の運営の蓄積情報を見ることで理解することができますが、声にならない「潜在期待」を捕捉するには工夫がいります。このような期待があるに違いない、と仮設を立てて実際に顧客とのやり取りを通じて学んでいく必要があります。ここには従来のルールや制約に縛られないチームの創設や新たなテクノロジーの実験がいることになります。

・顧客の期待に応えているかを検証する

顧客の利便性要求に応えるには自動化のソリューションが役に立ちます。ルーティンで対応可能なコンタクトは機械応対となり自動化率は高まります。反面有人対応は複雑化します。複雑化するコンタクト対応をパフォーマンス指標で管理することは現実的ではなく、品質指標で管理する方向となります。従来のモニタリング/コーチングの限界が露呈するので、ここは新たな品質評価を打ち立てなければなりません。

リテラシーを高めて“価値”を提供する

顧客応対を今まで以上に科学し、テクノロジーの活用とそこから生み出されるデータや情報をもとに運営を行うセンター業務は高いリテラシーが要求されることになります。怖気づく必要はありません。データや情報は合理的な判断を下すための材料です。 直感的な仮説を裏付けるものになるわけで情報基盤を整備することは戦略や施策を正当化するために大いに活用できることになるからです。顧客の期待に応え、経営に貢献できる価値を生むコンタクトセンターにテクノロジーの支援を得て一足飛びに脱皮してみませんか?

2019年掲載

著者プロフィール

谷口 修

コールセンターへのシステム導入経験がきっかけとなり、以降100社を超えるコールセンター構築やアセスメントをコンサルタントとして手がけ、センター責任者としてコールセンターを運用した経験を有する、コールセンターを前方位から語れるオーソリティ。セミナー講演、研修講師でのファンも多く、自ら創設しボランティアで運営するコンタクトセンター・アワードのコミュニティーでも独自の理論と合理的なアドバイスで好評を博している。

著書:
「実践!顧客感動を生むコールセンター」2006年監訳・出版/イーストプレス刊
「戦略的顧客対応 -理論と実践-」2008年監訳・出版/ファーストプレス刊
「戦略的コールセンターのすすめ」2014年リックテレコム刊
「コールセンターの経営学」2015年リックテレコム刊

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