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コールセンターコラム
〜第二章 賢いマネジメントになる〜

第7回 あとで困らない運営設計を描く

上半期にお届けしたコラムに引き続き、今日からまた6回のコラムをお届けします。
途中にはセミナーも開催する予定ですので楽しみにお待ち下さい。

イー・パートナーズ 谷口 修

さて、10月に発刊されたリックテレコム「コールセンター白書2019年版」によると、ほとんどのコンタクトセンターの設立目的は“顧客満足度の向上”であり、“自社製品のファン作り”や“リピーター獲得”を使命としています。その目的達成のためには“顧客ニーズの的確な把握”や“対応履歴から掘り起こした業務改善活動”、“ホスピタリティを重視した親身な対応”、そしてそれを実現する“人材育成”などがカスタマーエクスペリエンス追及には不可欠と回答されています。
そのような状況ですが、解決すべき運営上の課題として挙げられている上位10課題は次の通りとなっています。

  • 1.オペレータの採用・育成
  • 2.品質向上
  • 3.スーパーバイザーの採用・育成
  • 4.生産性の向上
  • 5.オペレータの定着率向上
  • 6.チャット、SMS等のマルチメディア対応
  • 7.呼量削減
  • 8.呼量に応じたオペレータの適正配置
  • 9.経営層のコールセンターに対する理解不足
  • 10.アウトソーサーとの良好な関係

これが現実ならば、足元でこのような課題を抱えたままでカスタマーエクスペリエンスを追及することや、顧客満足度を上げる努力をすることは穴のあいたバケツに水をためようとするに等しい努力ではないのでしょうか?短期的に対処しなければならない課題に時間をとられて中長期の戦略を策定することが後回しになっているセンターマネジメントの皆さんのご苦労が透けて見えます。
課題の1~8までは日常のオペレーションの問題であり、マネジメントが本来決断しなければならない3か月、半年、1年先を見据えた戦略判断事項ではありません。
これらに時間を割かれていては本来追及すべき“顧客満足度向上”、“ファン作り”、“リピーター獲得”の施策に時間や労力を割くことができないのも無理はありません。
では、どうすればこの現状を打破できるでしょうか?
安定的な採用を実現する、応対品質を担保する、SVの能力強化を図る、生産性を着実に上げる、呼量を削減する、予測精度を上げ必要リソースを計画配置するなどを実現するにはオペレーション組織の現場力を強化する必要があるわけですが、個々のオペレータやSV・スペシャリストがやるべきことを明確にし、実現手法を学べば十分にできることです。
余計なことを沢山やっていては手が付きませんから、まずは職務定義と目標設定をすべきです。
マネジメントはセンターとして目指す方向性を明確にして行動規範を定めれば、自ずと組織の自立性が生まれるのです。いつまでも対症療法に明け暮れるのではなく、ここは一旦立ち止まってセンターの存在意義と将来あるべき姿を描くことが重要です。

Amazonの事例をご紹介しましょう。
“地球上で最も顧客志向の会社になる”ことをミッションとしたamazonですが、それを実現するために“一生懸命働く”“楽しく過ごす”“歴史を作る”ことをスローガンに掲げています。これは創立以来変わっていません。

全社のミッション、スローガンを踏まえて顧客接点を担当するコールセンターでは2000年当時、

  • ・“顧客に最高の喜びを(XTC:エクスタシーの意味)提供する”、
  • ・“(ECのパイオニアとして)顧客を導く”、
  • ・“(ばかばかしい)コンタクトを防止する”

という3つの行動規範を定めていました。
短い言葉ですが、ここにはコールセンターのあるべき姿が凝縮されています。
オペレータは対応するお客様1人1人の状況を踏まえてその方にのみ向き合った対応をすること、ECの先導役としてECの楽しさをお客様に教えること、そして人が対応しなくてもよいようなコンタクトは防ぐ努力をすることを原則にしていたわけです。
その結果、Amazon.co.jpではECのプロフェッショナルになりたいという方を継続的に採用することができ、有人対応の品質は担保し、オペレータ自らの提案でwebのユーザビリティや機能強化を推進し、コンタクト対応の自動化や社内プロセスの改善を日常業務として全員参加で行うコールセンターが誕生したのです。
採用、品質や生産性の向上、能力開発、定着率のどれをとっても全く問題は発生しませんでした。
センターの設立意義を今一度振り返り、会社の全体最適を意識した業務目的を定め、スタッフ全員が共有すべきミッション・ビジョンが共有できれば現場力が高まり、ひいてはマネジメントは日常の問題からは解放されます。マネジメントとしては成長著しい事業を支援する戦略判断と社内調整の時間をとることができるようになるわけです。
スキル体系、トレーニング手法、品質評価手法、組織編制、情報武装その他運営実務の根幹となる大原則が決められていたならば行動や手法選び、戦略判断に迷いは出ません。あとで困らない運営方針をデザインしておくことが手戻りをなくしスピード感を伴った運営能力拡張の基礎となるのです。

いかがですか?時代が違うことを割り引いたとしても考え方は現在でも十分通用すると思います。
このあとのコラムでも知識を武器に賢いマネジメントになるためのヒントをお届けします。
お楽しみに。

2019年掲載

著者プロフィール

谷口 修

コールセンターへのシステム導入経験がきっかけとなり、以降100社を超えるコールセンター構築やアセスメントをコンサルタントとして手がけ、センター責任者としてコールセンターを運用した経験を有する、コールセンターを前方位から語れるオーソリティ。セミナー講演、研修講師でのファンも多く、自ら創設しボランティアで運営するコンタクトセンター・アワードのコミュニティーでも独自の理論と合理的なアドバイスで好評を博している。

著書:
「実践!顧客感動を生むコールセンター」2006年監訳・出版/イーストプレス刊
「戦略的顧客対応 -理論と実践-」2008年監訳・出版/ファーストプレス刊
「戦略的コールセンターのすすめ」2014年リックテレコム刊
「コールセンターの経営学」2015年リックテレコム刊

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