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コールセンターコラム

第1回 デジタルシフトのマグニチュード

コンサルタントとしてコンタクトセンターの改善/改革に携わってきた経験から、現在まさにセンター運営は大転換すべき時期を迎えていると感じています。従来通りの運営方法では顧客に愛想を尽かされ、事業貢献どころかセンターの存続さえ危うくなります。
少子高齢化に伴う人口動態の変化、企業のビジネスモデルの変革、内外の経済環境は激変しており、加えて足元では顧客の価値観やデジタルへの移行に伴いコミュニケーションスタイルが変わるというこれまでにないパラダイムシフトが起こっていることが現実なのです。
どのようにこれを乗り切るか、今回を皮切りに6回のシリーズでこれからのコンタクトセンターのあり方をお話します。

イー・パートナーズ 谷口 修

いまそこにある危機

コンタクトセンターマネジメントの方々が現場で直面している課題はおおよそ以下の図に集約されているのではないでしょうか。
コンタクトセンター業界のみならず多くの産業が採用に苦しみ、人材ミスマッチに悩んでいます。採用が難しければ現有リソースの離職防止に努めなければならず、マネジメントのリーダーシップの強化と働きがいを持てる環境・風土への変革が焦眉の急となります。併せて業務の難易度を軽減する目的でのコンタクト予防や顧客応対の際のオペレータ支援策としてのAIその他のテクノロジー導入に活路を求めることになるわけです。

しかしながら多くのセンターで展開されているドミノ倒しのようなこの対応プロセスは、既に起こってしまった現象に対する対症療法であり本質的な課題解決にはつながりません。 本当の危機は目の前にあるものではありません。解決すべき課題を近視眼的に見るのではなく、本来コンタクトセンターが使命とする「CX追求の顧客対応」を完遂するために解決すべき根本原因を追求するべきなのです。

直視すべき顧客の志向

顧客の日常は想像以上にスマホ主体になっています。ミレニアルやZ世代のデジタルネイティブのみならず、アナログ世代もFaceTimeやLINEを日常的に使っています。
インターネットを基盤とする環境は我々の生活を根本から変えました。
その上インターネット上の情報は顧客を賢くし、企業は顧客に隠し事はできなくなりました。
商品の仕様や性能、使い勝手の良し悪しや問題点、価格やサービスに至るまで顧客は情報を得ています。
賢くなった顧客からのコンタクトは単純ではなく、豊富な情報の上に湧いた疑問や質問、インターネット上で明確にならなかった事柄を問い合わせてくることになり、いきおいセンターでの対応は複雑・高度化します。
同時に顧客はスマホで使用できるあらゆる機能やチャネルを使いたいと思うようになりました。
電話はもちろんのこと、音声認識機能やビデオ会話、インストールしたアプリ、ショートメッセージ(SMS)、LINEをはじめとするSNSなどです。日常的に使うこれらの機能を当たり前にように対企業のコミュニケーションでも使いたいと思うのです。従来の「カスタマールール」は変わりました。
「CX追求の顧客対応」の解決すべき根本原因の1つは新たな「カスタマールール」をもたらした「デジタルシフト」です。様々な顧客接点における顧客体験価値(CX)を最大化したい企業としては、もはや後戻りできない顧客のデジタルシフトを是としてそれを受け入れ、急速に訪れたオムニチャネル対応を投資の重要項目とすべきなのです。

パラダイムシフトの現実

デジタルシフトの結果、賢い顧客は主導権を持ちます。サービスプロセス、商品の提供方法、価格もある程度顧客の選択肢で選べる自由度を求めるほか、コンタクトセンターに期待するサービスレベルも顧客側に決定権が移っています。従来CRM(Customer Relationship Management)と言っていた企業主導で顧客を囲い込む手法は成立せず、顧客主導で企業を選択するCMR(Customer Managed Relationship)の時代に変わってしまったということです。企業の論理で顧客の購買心理をコントロールすることには無理があります。

同時にそれらの顧客は「マス」でくくれる顧客ではなく、パワーを持つ1人1人の単独の顧客として認識しなければならない時代になりました。企業が先行するB2C(Business to Consumer)という言い方ではなく、1人1人の個客を先行させたMe2Bの時代になったと認識すべきです。Me2Bが「カスタマールール」です。
インターネットの浸透に伴うデジタルシフトによって顧客は従来と比較しようのない圧倒的なパワーを持つことになりました。それは災害のような物理的に目に見える震災ではありませんが、ライフスタイルや心理面では翻天覆地ともいうべき巨大なマグニチュードで我々を揺さぶり続けているのです。
「マス」あるいは「セグメント」でくくった顧客対応をしてきたコンタクトセンターはMe2Bの時代には顧客からは支持されません。顧客1人1人に対してそれぞれの顧客に期待に沿う対応をしてこそ存続する価値が生まれるのです。

コンタクトセンターであればこその“価値”を提供する

Me2Bを基本とする顧客対応では、異なる期待の顧客1人1人に沿った対応が必要です。つながりやすさといったマスオペレーション指標ではなく、期待にいかに応えられたかどうかが意味を持ちます。
ただインバウンド・コンタクトを待ち受けるタイプのセンターでは賢い顧客からは不興を買います。顧客の潜在期待に応えて必要に応じて積極的・能動的に顧客とのコンタクトをとる「以心伝心」タイプのセンターに脱皮しなければなりません。労働集約型組織としてのコスト重視のリソース管理から、知識集約型組織として品質・成果重視の人材育成そしてテクノロジーを積極的に活用する方向に舵を切らないとこの難局は乗り切れません。視点を変えればやり方も変わります。
採用や研修、モチベーション等人材系課題が悩みの中心であるのは待受型の運営スタイルを基本とした従来のコンタクトセンター運営方法論に凝り固まった先入観によるものです。
パラダイムシフトの現実を理解して今とは異なるカスタマールールの視点で、改めて組織体制や運営方法そしてテクノロジーの応用を考えましょう。企業の中で最大の顧客接点情報を預かるコンタクトセンターは、顧客資産を維持し増やすための情報拠点、インテリジェンスの集積所です。早晩オペレータ時給相場や坪単価などのコストで評価する組織ではなくなります。コストに代わって顧客に提供するバリューが評価の基準となるのです。
読者の皆さまは激変する経済環境を見据えた経営視点とMe2B時代の顧客視点を併せ持つ顧客対応のマネジメント能力を身につける必要があります。次回も変革への近道となる考え方をご紹介します。お楽しみに。

2019年掲載

著者プロフィール

谷口 修

コールセンターへのシステム導入経験がきっかけとなり、以降100社を超えるコールセンター構築やアセスメントをコンサルタントとして手がけ、センター責任者としてコールセンターを運用した経験を有する、コールセンターを前方位から語れるオーソリティ。セミナー講演、研修講師でのファンも多く、自ら創設しボランティアで運営するコンタクトセンター・アワードのコミュニティーでも独自の理論と合理的なアドバイスで好評を博している。

著書:
「実践!顧客感動を生むコールセンター」2006年監訳・出版/イーストプレス刊
「戦略的顧客対応 -理論と実践-」2008年監訳・出版/ファーストプレス刊
「戦略的コールセンターのすすめ」2014年リックテレコム刊
「コールセンターの経営学」2015年リックテレコム刊

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