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コールセンターコラム

第6回 ビジネス貢献にむけての100日改革ロードマップ

これまで5回にわたりCXを追求するための基本的な考え方を述べてきました。

  • ・パラダイムは既にデジタル時代に移行しているのでセンターの環境や運営方針は見直さなければならない。
  • ・コンタクトセンターが追求すべきCX向上はすなわち顧客のロイヤルティレベルを上げることが目標であり、そのためには顧客の潜在期待に応える必要がある。
  • ・導入が容易になったテクノロジーは、使うべき人が選んで、いち早く導入し、その上ツールとして使い倒すべきである。
  • ・社内プロセスを直さない限り本質的なCX追及はできない。
  • ・顧客接点課題の解決は対症療法でお茶を濁すのではなく本質である根本原因を追求すべきで、そのためには全社で共有するビジネス貢献指標を利用することが有効である。

要約すると実にわかりきったことなのです。とはいえ、言うことはわかるがそんな簡単にできないだろう、と思われている方に最終回となるこのコラムではできる方法をお話します。
コンタクトセンターが単につながりやすければ良い、という時代は既に終わり、全社的に顧客のCX追求をドライブするセンターになるべき時代です。スピードが生命線です。
半年や1年かけて、という時代ではありません。長くても四半期で完結するプロジェクトにしましょう。100日あればCX追求のイニシアティブをとってビジネス貢献できる組織に変革を遂げることが可能です。
社内の事業組織・経営層と会話するためのレポートメカニズムさえ構築できれば可能なのです。
その気になりさえすれば誰でもできる運営改革の「100日ロードマップ」を紹介します。

イー・パートナーズ 谷口 修

100日改革とは?

コンタクトセンターが全社組織の中で唯一顧客対応の専門能力を持った組織であることを共通理解とし、顧客という資産を維持拡大していくイニシアティブをコンタクトセンターが果たすようにするための自助努力です。
命じられたことをやるのではなく、顧客接点を担う組織として既に手にしている情報を最大限利用して顧客戦略を描き実行する組織に変革することをいいます。

100日改革のロードマップ

コンタクトセンターが顧客応対戦略の要となり事業貢献の旗振りができるようになります。この改革は100日あれば十分です。100日は14週+2日なので週単位の工程を考えてみます。
“変革しよう”と覚悟を決めた日が初日です。

第1週 1. コンタクト履歴/VOCデータ取得

まず最初にやるべきは自社のコンタクトセンターで対応しているコンタクトの内容を今一度精査することです。過去の応対がテキストで記録されている履歴を一定数取り出します。1ヵ月分でも6ヶ月分でも構いません。最低5千件あれば大丈夫です。

第2/3週 2. コンタクトリーズン分類整理・体系化

1.で抽出したテキストデータをコンタクトリーズンとして分類・整理します。分類はMECE※であることが条件です。あくまで顧客視点での動機に着眼した分類とします。記録するオペレータが間違わないように「納品日が知りたい」のように文章表現でリーズンを表します。数も絞り込みます。
従来からコンタクトリーズンを利用しているセンターは、単語を文章に置き換える他、MECEを検証して再体系化して下さい。
※ MECEとは“もれなく重複なく”分類整理することです。

第4週 3. 新コンタクトリーズン体系リリース

新体系が社内他部署から見て取得すべき内容を網羅しているか、従来の体系よりも理解しやすく記録に間違いが起こらないかを検証してリリースします。トレーナーは周知徹底のための研修を作ります。システム担当は新体系への切り替え/導入準備を始めます。

第5/6週 4. 新コンタクトリーズン体系のシステム設定

ACDに新コンタクトリーズンが入力できるよう設定作業を行います。

5. 新コンタクトリーズン導入トレーニング

オペレータに導入研修を実施します。

第7~10週 6. 新コンタクトリーズンデータ取得

新たに設定したコード体系で実運用し入力結果を集計します。4週分(1ヶ月)で大丈夫です。

第11週 7. VIマトリクスへのデータ展開

取得したコンタクトリーズンを“価値”に基づいて区分します。
会社視点で判断して価値があるかないか、顧客視点で見たときに価値があるかないかのチャートを想定した場合、双方にとって価値があると思えるコンタクトリーズンは右上の象限です。センターにとって最も有人対応で注力すべきはこの象限に位置づけられるコンタクト対応です。サービスレベルを気にすべきコンタクトであり、品質評価の対象にすべきコンタクトがここにあります。
会社にとってあまり価値はないけれども顧客にとってはわざわざコンタクトをする意味がある右下象限のコンタクトは徹底的に自動化を試行すべきコンタクトです。ここで使われている顧客対応コストは将来の自動化投資の原資となります。
会社にとって価値はあるけれども顧客にとってわずらわしい左上象限のコンタクトは会社が提供するプロセスにわかりにくさや複雑さがあることが原因のコンタクトです。VOC活動の対象としてプロセス変革の材料にすべき対象がここにあります。
どちらにも価値がない左下のコンタクトは双方にとって意味がないので予防・抑止する策を考えなければなりません。
全てのコンタクトリーズンがそれぞれどの象限に当てはめられそうかセンター内部で検討します。

第12/13週 8. リーズン紐付け合意形成ワークショップ

センター内部で検討したリーズンと価値象限の関係を他部署に公開し、意見をもらう場を設けます。
コンタクトリーズンを会社と顧客視点で価値判断をした内容は、会社全社の顧客志向の方向性を決める材料となります。「故障したので修理してもらいたい」というコンタクトは右上象限であれば、迅速確実な修理受付と修理部門の適切な対応が不可欠です。「ポイント残高が知りたい」という顧客にとって重要だけれども有人対応の意味を感じない右下象限のコンタクトに対して、マーケティング部門と共有してシステム投資の優先課題として認識することができます。「在庫ありますか」という左上象限のコンタクトにはより簡単に知ることができるプロセスを関係部署含めて考える必要があります。
全てのコンタクトのコンタクトリーズンをACDで記録できるようになると、リーズン毎のコンタクトの数と対応に要した処理時間を集計できるようになります。どのコンタクトリーズンにどれだけのリソースを使用したかの実績と傾向がわかるようになることは関係部署の施策やプロセス改善の指針となります。実態を数値で示し、部署をまたがってCXを追求する会議ができるようになるのです。関係部署が理解・納得できるように丁寧に説明をし、その上でコンタクトリーズンが関係部署の施策やプロセスとどのように関連しているか、そして将来どうあるべきかを議論します。

第14週 9. VIマトリクスに基づく施策立案

コンタクトリーズンと価値の相関を関係部署が理解し、合意形成ができたならば、VIマトリクスの各象限毎に取るべきアクションを洗い出し、効果予測を検討した上で優先順位を決めます。これがすなわちセンターとして取り組む施策となり、そのまま事業計画となります。削減対象あるいは自動化に移行するコンタクトの数や、よりAHTを伸ばしても顧客の潜在期待に応える手法に変えるべき対象も明確となり、コンタクトセンターとしての具体的な打ち手がわかるようになります。
これでコンタクトセンターが明らかに事業貢献することを立証することができるようになります。
改革は完了し、これを起点にCXを追求し、事業貢献のエンジンとなる「ベストサービスはノーサービス」(提供する商品・サービスが素晴らしく、顧客が満足していれば問い合わせはない、という状態を比喩したもの)永続的な活動が始動するのです。

ベストサービスはノーサービスの展開

100日改革のあとはVIマトリクスベースの施策を展開すれば良いのですが、その施策の判断基準として図に示す「ベストサービスはノーサービス」の展開手法と照らし合わせることが有効です。
この原則と展開順序に沿っている限り、CX追求は全社あげての活動となり、効果が実感できるようになります。経営の方向は間違いなくベストサービスはノーサービスですから、センターの運営の基本的な考え方も同期している必要があります。
顧客の顕在期待と潜在期待の期待値を知り、VIマトリクスを使用して各象限の施策目標を設定してその効果を追跡し、より顧客とのコンタクトを取りやすい環境を整備し、全社のプロセス最適化の提案と実践の旗振りをしてCX追求する、という一連のプロセスの結果、ベストサービスはノーサービスが実現するのです。

コンタクトセンターの“価値”は絶大だ

紹介したロードマップを応用して自社センターへの適用は考えられそうでしょうか?
センターの歴史や規模、社内のポジショニングや成熟度その他の理由でロードマップに寄り道や障害物があるかもしれませんが、基本となる考え方はご理解頂けたと思います。
顧客との接点情報には“価値”があります。それらを預かるコンタクトセンターはそもそも会社にとっての“宝”を持っているわけです。大いに活用してコンタクトセンターの存在価値を高めて下さい。
応対価値を整理して組織の方向性まで左右する強力なツールとなる“コンタクトリーズン”の重要性は注目に値します。この体系がうまく設計され、ツールと連動しているセンターは間違いなく事業貢献を果たしているセンターです。
導入に当たって気をつけるべきことは、コンタクト毎の処理時間がコールリーズンと結びつくことが重要なので、ACD側のレポートシステムにコールリーズン入力ができる仕組みが要るということです。電話だけなら可能でもマルチチャネルでのコンタクトリーズン体系を適用できるテクノロジーを利用しなくてはなりません。
いずれにせよ、対症療法に明け暮れてダラダラ続ける改善よりドラスティックな改革を指向しまょう。
皆さまのセンターが、一日も早く顧客と会社双方の価値観を統一してベストサービスはノーサービスの状態に近づくことを期待しています。

2019年掲載

著者プロフィール

谷口 修

コールセンターへのシステム導入経験がきっかけとなり、以降100社を超えるコールセンター構築やアセスメントをコンサルタントとして手がけ、センター責任者としてコールセンターを運用した経験を有する、コールセンターを前方位から語れるオーソリティ。セミナー講演、研修講師でのファンも多く、自ら創設しボランティアで運営するコンタクトセンター・アワードのコミュニティーでも独自の理論と合理的なアドバイスで好評を博している。

著書:
「実践!顧客感動を生むコールセンター」2006年監訳・出版/イーストプレス刊
「戦略的顧客対応 -理論と実践-」2008年監訳・出版/ファーストプレス刊
「戦略的コールセンターのすすめ」2014年リックテレコム刊
「コールセンターの経営学」2015年リックテレコム刊

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